開催日時:2025年5月26日(火)13:00〜14:30
会場:赤堤ゴルフクラブ セミナールーム(東京都世田谷区)

ある会話から、すべてが始まった
「加藤さん、私ね、認知症の予防をもっと地域に広めたいんですよ」
昨年、桜上水に新しいクリニックを開業された認知症専門医・
久米一誠先生と、ある場でお話しする機会があった。
先生がそうおっしゃったとき、私は思わず前のめりになっていた。
まったく同じことを、私も考えていたからだ。
パーソナルトレーナーとして、柔道整復師として、毎日
たくさんの方の体に向き合っていると、「運動」が
認知症予防のカギを握ることが肌感覚でわかる。
でも現実は、ジムに来てくれている方でさえ、
そのことをほとんど知らない。
久米先生は医学の最前線から。私は動かす現場から。
アプローチは違う。でも向いている方向は、完全に一致していた。
こうして「世田谷認知症予防プロジェクト」が動き出した。
なぜ今、この認知症予防なのか
数字を正直に見てほしい。
認知症とMCI(軽度認知障害)を合わせた患者数は、
すでに1,000万人を超えている。
65歳以上の11〜17%がMCIと言われ、
そのうち10〜15%が1年以内に認知症へ進行する
というデータもある。
政府も自治体も、この問題の深刻さは把握している。
医師も警鐘を鳴らし続けている。
それでも「予防」となると、なぜか話が止まる。
理由はシンプルだ。「病気になってから動く」という
医療・行政の構造の中では、「防ぐ」ための
文化がなかなか根付かない。
予防に踏み込む専門家は、まだほんの一握りだ。
久米先生と私は、そこに風穴を開けたかった。
草の根でいい。世田谷の一隅から始めていい。
この活動が「世田谷モデル」として、
いつか社会全体に広がることを、本気で目指している。
セミナー当日の内容——完全レポート
🏋️ 加藤パート「動くことが、脳を守る」
今日から動けば、未来は変えられる

セミナーの冒頭、
私は参加者にひとつの問いを投げかけた。
私が今日売り出す魔法のカプセルで
「認知症のリスクを、約40%下げられるとしたら?」
会場がざわめいた。
もちろんそんなカプセルは存在しない。
ただ下げられる事実は希望的観測ではない。
世界的権威ある医学誌『The Lancet』2024年報告による、
実証されたエビデンスだ。
適切な対策によって、認知症の発症リスクは約40%低下できる可能性がある
その対策の中に、運動は明確にリストアップされている。

PART 1|なぜ運動が「脳に効く」のか?
海馬・BDNF・マイオカイン
この3つの言葉を、ぜひ今日覚えて帰ってほしい。
① 海馬——脳の「メモ帳」を守る
脳の奥に「海馬」という部位がある。
記憶を司る、いわば脳のメモ帳だ。
アルツハイマー型認知症では、
ここが最初にダメージを受ける。
だから物忘れが初期症状として現れる。
では、海馬はどうすれば守れるか。
答えは適度な運動だ。
週3回のウォーキングを1年間続けると、
海馬の体積が約2%増加するという研究がある。
加齢で失われるはずだった海馬の体積を、
運動が取り戻してくれるのだ。

② BDNF——脳の「肥料」を増やす
運動をすると、
脳内でBDNF(脳由来神経栄養因子)という物質が増える。
神経細胞を育て、神経同士のつながりを強化する
文字通り、脳の肥料だ。
畑に肥料がなければ野菜は育たない。脳の神経細胞も同じ。
少し息が上がるくらいの有酸素運動が、BDNFを最も効果的に増やす。
③ マイオカイン——筋肉と脳は「会話」している
ここがオカルトチックな話で驚きかも知れないが、
筋肉が収縮するとき、
マイオカインというメッセージ物質が分泌される。
それが血流に乗って脳(海馬・前頭葉)に届き、BDNFを増やし、
炎症を抑え、認知機能を守ってくれる。
ここまでの話は、現時点では「可能性」の
段階にある部分も含まれている。
ただし、予防医学の研究は今まさに加速しており、
久米先生をはじめとする専門家たちも、
エビデンスがさらに積み重ねられていくことを確信している。
筋肉は「体を動かすだけの部品」ではない。
脳と直接対話している臓器なのだ。
そして重要なのが、
全身の筋肉の約70%が下半身に集中しているという事実。
だから下半身を動かすことが、
脳への最も効果的なメッセージになる。
筋トレ=脳トレ
これは比喩ではなく、科学的な事実だ。
PART 2|何を、どれくらいやればいいか? 「4つの柱」
「何をすればいいかわからない」
それが、運動を始められない最大の理由だ。
答えをシンプルに伝えよう。4つの柱だけ意識してほしい。
| 柱 | 内容 | 目安 |
| ① 有酸素運動 | 早歩き・ウォーキング | 週150分(1日30分×5日、または10分×3回でもOK) |
| ② 筋力トレーニング | 下半身中心(椅子スクワットでも可) | 週2回 |
| ③ デュアルタスク | 体を動かしながら頭を使う | 毎日少しでも |
| ④ バランス・柔軟 | 片足立ち・ストレッチ | 転倒予防のために |
有酸素運動の目安は「隣の人と話せるが、少し息が上がる程度」。
ジムに行かなくていい。買い物のついで、
一駅分の歩きが、そのまま脳への投資になる。
筋トレも特別な器具は不要。
椅子からゆっくり立ち上がり、ゆっくり腰を下ろす
それを数回繰り返すだけで立派な下半身トレーニングになる。

そして見落とされがちなのが「転倒予防」だ。
転倒→骨折→入院・安静→認知機能の低下という連鎖は、
実はよく起きている。「転ばない体」をつくることが、
認知症予防の重要な柱のひとつだ。
PART 3|実践! 会場で体を動かした
当日は実際に、参加者全員で体を動かした。
足踏みしながら野菜の名前を言う。
足踏みしながら100から3を引き続ける。

「難しい!」という声があちこちから上がった。
でもそれが正解だ。「難しい」と感じているとき、
脳はフル回転している。
最後は4・4・8の深呼吸
鼻から4秒吸い、4秒止め、口から8秒かけてゆっくり吐く。
これを3回繰り返すだけで、自律神経が整う。就寝前にも最適だ。
3つだけ覚えて帰って
❶ 運動は、脳への最高の投資——お金もかからず、副作用もなく、今日から始められる
❷ 完璧じゃなくていい——続けることが財産。やらない日があっても、また動けばいい
❸ 体の不調を放置しない——痛みは動きを止める。体を整えることも立派な認知症予防
🩺 久米先生パート「早く知ることが、最大の武器になる」

認知症の「今」を知っていますか?
久米先生はまず、認知症の現実を数字で示してくれた。
認知症の原因疾患の中で最も多いのが
アルツハイマー病(62%)。
次いでMCI(10%)、
レビー小体型認知症(6%)と続く。
そして衝撃的なのが、MCI(軽度認知障害)から
アルツハイマー型認知症や血管性認知症に移行する例が多く、
5年経過で約半数が認知症に進行するというデータだ。
しかし同時に、希望もある。
MCIの段階では、改善することもある。
だからこそ、早く気づくことが決定的に重要なのだ。
普通の物忘れと、認知症の物忘れ——決定的な違い
会場で最も「なるほど」という空気が広がったのが、この説明だった。
- 加齢による物忘れ:昨晩食べたものの一部が思い出せない
- 認知症による物忘れ:食べたかどうか自体がわからない

この違いは連続的で、完全には区別できないが、
見当識(日付・場所の認識)の低下と、
この「出来事ごと消える」という物忘れは、
アルツハイマー病の重大なサインだ。
2024年の医学的大転換——「症状がなくても診断できる」時代へ
2024年に改訂された国際的な診断基準(NIA-AA)によって、
アルツハイマー病の診断に症状は不要になった。
アミロイドPETという画像検査で、
脳内の異常タンパク質(アミロイドβ)を可視化できるようになり、
症状が出る前に診断し、治療を始める時代に突入したのだ。

さらに注目すべきがSCD(主観的認知機能低下)という概念だ。
「物忘れが気になるのよ…」
「大丈夫でしょ!」
この「大丈夫でしょ」と言われる段階
——周囲からは気づかれないが、
本人だけが認知機能の低下を自覚している状態
——それがSCDだ。
一番最初の症状に気がつけるのは、本人だけ。
認知症に対する知識と、わずかな疑いの目があれば、
この超早期段階でキャッチできる。
生活習慣病は、認知症のもと
久米先生がLancet 2024年報告を引きながら解説してくれた
認知症の修正可能なリスク因子は、こうだ。
| リスク因子 | 寄与割合 |
| 高LDLコレステロール(中年期から) | 7% |
| 難聴 | 7% |
| 教育不足 | 5% |
| 社会的孤立 | 5% |
| 頭部外傷 | 3% |
| うつ病 | 3% |
| 大気汚染 | 3% |
| 運動不足 | 2% |
| 喫煙・糖尿病・視力低下・高血圧 | 各2% |
| 過度の飲酒・肥満 | 各1% |
これらすべてに対策が取れれば、
最大45%の発症リスク低下が見込める可能性がある。
「認知症予防に裏ワザ・近道はない」と久米先生はきっぱり言った。
高血圧・糖尿病・高コレステロール——これらを真剣に管理することが、
そのまま脳を守ることに直結する。
目標値の目安として、久米先生が提示したのがこれだ。
- 血圧:125/75mmHg(診察室血圧は130/80)
- LDLコレステロール:120〜140mg/dL
- 血糖値(HbA1c):6.0〜7.0%
認知機能テスト——会場が真剣になった瞬間
当日のハイライトのひとつが、
久米先生による認知機能テスト体験だ。
単語の記憶、日付の確認、計算、図形の模写、
そして——じゃんけんで「負ける手」を素早く出す。
「勝ってはだめですよ」
——画面が切り替わるたびに、
会場に笑いと真剣さが混ざりあう独特の空気が生まれた。

「喋ってしまった人、前頭葉機能の低下があるかも!」
という先生の一言に、また笑いが起きた。
これはMMSEや長谷川式スケールより少し難しい、
前頭葉機能も含めた検査だ。
「難しい」と感じることが、むしろ脳が正直に動いている証拠でもある。
採点基準のポイントは、
- 記憶:3個答えられれば許容範囲、2個で要注意、1個以下で危険
- 計算:以前より明らかにできなくなっていたら要注意
- じゃんけん:前頭葉機能の低下でできなくなる
久米先生の「本日のまとめ」から
認知症予防は千里の道。毎日の積み重ねが認知症を遠ざける。
先生がまとめとして伝えてくださったメッセージをそのまま記しておきたい。
- アルツハイマー病の治療は早ければ早いほうが良い
- 新薬(抗アミロイド抗体)は早期にしか使えない
- 物忘れの自覚があれば、超早期のアルツハイマー病かもしれない
- 日付や少し前のことを忘れるのは重大なサイン
- 高血圧・糖尿病・コレステロール管理が認知症を防ぐ
- 頑張れば発症リスクを半分にできるかもしれない
- 運動習慣と社会参加が、認知機能の維持に有効。社会的孤立は危険

参加者の声・当日の雰囲気

定員12名という少人数制ながら(結果14名参加)満員となった今回のセミナー。
世田谷区内にお住まいの50〜70代の方々が参加してくださり、会場は熱気に包まれた。
認知機能テストでは真剣な表情が並び、体を動かすパートでは笑い声が上がる——その緩急が、「知る」と「動く」を一体化した今回のセミナーの核心だったと思う。
締め——予防は、50代から始まる「最高の投資」だ
久米先生はこう言った。
「早期発見・早期対応が、選択肢を増やす。
今の自分のことを、自分で決められる期間を延ばすことができる。
そのために、今日知ったことを使ってほしい。」

そして私はこう付け加えたい。
予防とは、「病気にならないこと」じゃない。
「なりたい未来を、自分で選び続けること」だ。
運動はお金もかからない。副作用もない。今日から始められる。
それが脳への最高の投資だと、私は本気で信じている。
50代はまだ間に合う。
いや、50代だからこそ、今が動き時だ。

このセミナーが「自分ごと」として認知症予防を考える
きっかけになったなら、それ以上うれしいことはない。
登壇者紹介
久米 一誠 先生(医師)
桜上水駅前内科|医療法人社団 Qmedic 院長
東京医科大学卒・医師免許取得後、同大学院にて高齢総合医学の博士課程を修了。
総合内科専門医・老年科専門医・認知症専門医という三冠を持つ異色の開業医。
「高齢者の複雑な病気の特性をふまえて治療する」
——それが先生のスタンスだ。
認知症外来を持ちながら、
「病気になる前に関わりたい」という思いで地域に
飛び出してきた先生は、開業医の枠を軽々と超えている。
加藤 秀之(柔道整復師・パーソナルトレーナー)
あさがおパーソナルジム/あさがお整体院(下高井戸)
柔道整復師歴35年以上。
フルマラソン30回以上完走、PV3時間03分、
週3〜4回の筋トレを今も継続中。
「治す」と「鍛える」をひとつの場所で提供し、
予防医療・運動習慣の普及を地域で実践している。
世田谷認知症予防プロジェクトについて
今回のセミナーは、世田谷認知症予防プロジェクトの第一歩として開催しました。
地域の草の根から認知症予防の文化を育て、
やがて「世田谷モデル」として社会に広げることを、
久米先生と私は本気で目指しています。
次回セミナーの開催も準備中です。
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本記事は2025年5月26日開催のセミナー内容をもとに作成しています。医療に関する具体的なご相談は、必ず専門医にお問い合わせください。



